七夕night スピンオフ

七夕の夜、みんなの待つ白馬山荘目指して深夜の大雪渓をひとり歩いた記録
モルゲンロートで会いましょう

深夜3時、空が明るくなり星が煌めき始める。ヘッドライトを消す。肉眼で分かるほどくっきりとした天の川が西の空に出現。薄明が始まった。

足を止めると嫌な予感がした。明らかに傾斜が変わる。ガラガラと音を立てて岩が崩れる音。気づいた時にはもう遅い。自分の2m横でサッカーボール大の岩が勢いよく流れ落ちる。道を間違えた。岩雪崩の巣に紛れ込んでしまった、長居はできない。

薄明の中、遠くに見える岩峰(杓子岳)、うっすら認識できた稜線の方に向かったのがミスの原因。どうやら1本左の沢に入ってしまったようだ。

静寂を破る落石の音が響き、暗闇の中に緊張感を煽る。顔を上げると満天の星が宇宙を見事に表現している。

地上と上空では不気味さと壮大さがせめぎ合っていて、その空間に自分ただひとり。この瞬間が今回の山行のハイライト。自然の深淵に触れた瞬間だった。

落石の恐怖を受け入れて、私はシャッターを数回切った。その時初めて、カメラの液晶越しに大雪渓の姿を目の当たりにする。肉眼では受容できない光をカメラでは圧倒的な美として捉えていた。

大雪渓は今完全に私を包み、その構造の内部に私の存在を許容している。山は親しくもあり、時には恐ろしく厳しい。美とは厳しさに内包するものなのかもしれない。

カメラをしまい、方角を定めて闇の中を東に進路をとり尾根に取り付く。ここなら最悪落石は避けられる。しかし、ここは泥尾根で足場はぬかるみ、まともに歩くことが出来ない。

幸い少し登ったところで雪渓の終了点を見つけたので、そこからは沢を詰めることにした。その方が楽だし安全かもしれない。夜明け間近で、視界も大分クリアになった。尾根の向こう側には、さらに上部まで雪渓が繋がっており、そちらが正解のルートだろう。


沢の方も地盤がゆるいのか?滝登りの際、ホールドがもろく、掴んだ瞬間ボロッと崩れてしまい、朝っぱらから泥のシャワーを浴びる。私が朝からドロドロだったのはこのせいだ。

30分以上のタイムロス。相変わらず、自分は何してんねんと思う。夜明けの大雪渓上部の滝で泥浴びをしてるって想像しただけで面白い。

ちなみに私は厳冬期にスキー板を担ぎながらパンツ一丁で川を渡渉したこともあれば、夏の沢で滝のシャワーを浴びて震えながら100Kg近いパートナーに肩車をしたりという、まあ、普通の人から見たら?な変態エピソードは数知れず。


そのまま進むと登山道に出合い、ひと安心。5時過ぎ、ほろがちのみんなと無事合流することができた。道迷いせずに30分早く着けば、みんなと一緒にご来光を見られたのにと悔しい思いをしたが、これは自分が未熟だったせいである。たかが1mあたり10cmのズレが、100m進むと10mのズレが生じる。道迷いはそうやって起きる。


さて、30分も休めば充分。お天気も味方している。ウォーミングアップは終わった。これから皆との楽しい登山が始まる。


END


いとけん

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